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名古屋地方裁判所 平成10年(行ウ)49号 判決

原告 井口昭蔵

原告 大場成一

原告 柿沼隆清

原告 中泉洋子

原告 鈴木みさ子

右訴訟代理人弁護士 長屋誠

同 柴田肇

同 小林修

同 川崎浩二

同 鈴木哲哉

被告 早川勝

右訴訟代理人弁護士 中田健一

被告 坂口好孝

被告 清水ひろ尚

被告 原基修

被告 佐藤巧宜

被告 市川健吾

被告 浜本国光

被告 伴哲夫

被告 石黒巌

被告 鈴木清博

右九名訴訟代理人弁護士 又平雅之

同 渡邉淳

同 池田至

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告早川勝は、豊橋市に対し、一一五六万三四二〇円を支払え。

二  被告坂口好孝、同清水ひろ尚、同原基修、同佐藤巧宜及び同市川健吾は、豊橋市に対し、それぞれ一二八万〇三八〇円を、被告早川勝と連帯して支払え。

三  被告浜本国光、同伴哲夫、同石黒巌及び同鈴木清博は、豊橋市に対し、それぞれ一二九万〇三八〇円を、被告早川勝と連帯して支払え。

第二事案の概要

一  本件は、豊橋市の住民である原告らが、豊橋市が、平成九年度の市議会議員の海外行政調査費用を支出したことについて、

1  右行政調査は観光あるいは慰労のためのものであり、職務とはいえないから、右支出は地方自治法(以下「法」という。)二〇三条三項に違反する

2  右行政調査に係る旅費(以下「本件旅費」という。)は不相当に高額なものであるから、その支出は法二条一三項及び地方財政法四条一項に違反する

3  右支出は、豊橋市と旅行会社との間の随意契約をその対象としているが、随意契約の要件を欠いているから、法二三四条二項に違反する

4  右支出手続が適正に行われていないから違法である

と主張して、右支出を行った豊橋市長である被告早川に対し、右支出額について、法二四二条の二第一項四号前段に基づき、また、行政調査を行った市会議員であるその余の被告らに対しては、各自支給を受けた旅費相当分について、同号後段に基づき、同市に代位して、損害賠償あるいは不当利得返還を求める住民訴訟である。

二  争いのない事実等

1  原告らは豊橋市の住民であり、被告早川は豊橋市長、その余の被告は豊橋市議会議員である(以下「被告市議ら」という。)。

2  被告市議らは、平成九年九月二七日から同年一〇月一〇日までの間、「平成九年度豊橋市議会欧州視察」として、行政調査(以下「本件行政調査」という。)を行った。

3  平成九年九月一二日付け支出命令に基づき、同月二二日、本件旅費として、被告坂口好孝、同清水ひろ尚、同原基修、同佐藤巧宜及び同市川健吾に対し、それぞれ一二八万〇三八〇円、被告浜本国光、同伴哲夫、同石黒巌及び同鈴木清博に対し、それぞれ一二九万〇三八〇円の、合計一一五六万三四二〇円が、資金前渡の方法により支出された(乙ロ二、以下「本件支出」という。)。

そして、同年一〇月一四日付けで、資金前渡職員から資金前渡金精算書が提出されている(乙ロ七)。

4  原告らは、豊橋市監査委員に対し、本件支出が違法であるとして、監査請求を行ったが、同監査委員は、これに対し、平成一〇年九月一日付けで、右監査請求を理由がないものとする旨の通知をした。

三  争点

1  本件支出に係る本件行政調査は、職務として行われたものでなく、違法か。

(原告らの主張)

(一) 本件行政調査は、議会がその必要性を感じて決定したものではなく、議会の意思とは無関係に、議会の機関でもない世話人会において、実施の三年も前に、当選二回以上の議員の中から各会派ごとに割当てを決めたものである。

被告らは、議会運営委員会で決定されたと主張するが、平成三年に新設された法一〇九条の二の規定を見ても、議会運営委員会に議員の海外視察の実施について決定する権限はない。

(二) 議会が、公金を使用して行うに値する「視察旅行」というためには、

(1) 議員の職務又は活動と関連性を有するものであること、

(2) 具体的な行政課題との関係において、議員の職務又は活動に資するものであること、

(3) 事前に関係機関と連絡を取るなどして周到に準備されること、

(4) 対象をつぶさに見て回り、関係者などから十分な説明を聞くなどすべきこと、

以上の要件を備えることが最低限必要である。

しかしながら、本件行政調査は、内容や準備も旅行業者任せで企画されている。実際の行程においても、最重要課題とされていたフィルトプラントの調査にはほとんど時間を割かず、見学内容も形ばかりのものであり、調査時期も不適切であり、後日、調査をやり直さなければならないほどであった。

その余の行程も、ほとんどは観光地を見物しただけのもであり、形式的な公式訪問を名目上含めているにすぎない。

(三) 以上のとおり、本件行政調査が、観光あるいは慰労を目的として行われたものであることは明らかである。

(被告らの主張)

(一) 視察等への議員の派遣については、その必要性、相当性の有無、対象、範囲、方法などを含めて、議会の自治に任され、原則的にその裁量に任されている。議会の意思決定自体が存在しない場合や、議員の派遣について合理的な目的が全く存しない場合、派遣の目的に何ら資するところのない旅行計画を立てた場合のように、裁量権の行使の逸脱又は濫用が明らかな場合に限って違法となると解すべきである。

(二) 議員の海外行政視察には、必ずしも議決は必要がなく、議会の意思に基づくことが確認できればそれで足りるものである。本件行政視察については、平成九年三月、議会費、海外視察調査費として一四三〇万円が計上された一般会計予算が議決されているし、先例にならって、議会運営委員会において、同年五月二日、派遣議員一〇名を決定し、同年八月二五日、その内容と時期を決定した。そして、同年九月一二日、市議会議長は被告市議らを本件行政調査に派遣することを承認した。

(三) 調査事項及び訪問先は、被告市議らによる打合せ会において、当時市政において問題となっていた事項と絡めながら協議され、主として次のとおり決定された。

<1> 廃棄物処理状況、豊橋市への導入が検討されていた次世代型焼却炉(熱分解溶融炉)について調査するためドイツを訪れる

<2> 高齢者福祉のあり方について調査するためデンマークを訪れる

<3> 愛知万博に向け、他都市の万博の状況等について調査するため万博開催予定地を訪れる

<4> 豊橋総合動植物公園と交流関係にあるモネ財団への表敬訪問を行うためフランスを訪れる

<5> 日本における本社が豊橋市にあるフォルクスワーゲン社への表敬訪問を行うためドイツを訪れる

これらに加え、訪問先の都市における都市づくり、都市景観、都市開発状況及び教育文化施設等の視察も今後の市政に役立つようでき得る限り行い、報告することとされた。

(四) 被告市議らは、本件行政調査の効果を上げるため、豊橋市の野依福祉村、豊橋総合動植物公園内のモネガーデン、フォルクスワーゲンジャパン本社及び瀬戸市の万博開催予定地の四か所において、事前調査を実施している。

(五) 本件行政調査は真摯に行われ、同年一二月二二日、市議会議員全員、助役以下課長職以上の職員及び報道関係機関を対象に、被告市議らによる結果報告も行われた。また、被告市議らにより、「平成九年度豊橋市議会欧州視察団報告書」(以下「本件報告書」という。)が作成され、市民の閲覧に供されている。

(六) 熱分解溶融炉の開発・試運転状況の再調査は、豊橋市が導入を予定していた焼却炉が事故を起こしたため、その調査に市の担当者が行ったものであって、本件行政調査とは関係ない。

(七) 以上のとおり、本件行政調査は、職務として適正に行われたものである。

2  本件支出は、不相当に高額であり違法か。

(原告らの主張)

(一) 本件旅費は、一人当たり約一三〇万円であって、他の地方自治体の例と比較しても、非常に高額となっているが、その原因は、航空機においてビジネスクラスを利用したり、宿泊ホテルが高級であったりしたことにある。

市議会議員が市民の代表である以上、公費による行政調査においては、平均的市民が利用するエコノミークラス及び高級でないホテルを利用すべきである。旅券交付手数料も公費から支出されているが、これは自費で支出すべきものである。

(二) 本件旅費が国家公務員等の旅費に関する法律(以下「国家公務員旅費法」という。)の規定に準じて定められるとしても、市議会議員を国家公務員一一級の職務にある者とみなす根拠はない。

(被告らの主張)

(一) 豊橋市旅費支給条例(以下「旅費条例」という。)二四条は、外国旅行に支給する旅費額を、国家公務員旅費法の規定に準じて予算の定める額としているところ、本件支出は、支出負担行為の決裁において国家公務員一一級の職務にあるものとみなす決裁を得て行われたものである。

(二) 滞在費は、宿泊費及び食卓料のほか、現地での移動費用、通訳料及びガイド料等を含むものであるため、その性質上、内容を分離することが困難であり、また、総額も相当なものであったことから、旅費条例二五条二項の規定に基づき、市長の承認を得て支給されたものである。

航空運賃は、国家公務員旅費法三四条及び附則七項により、最上級の直近下位の級の運賃として、ビジネスクラスの利用による実費航空運賃の支給が規定されており、本件行政調査の航空運賃も、右規定に基づき支給されたものである。

旅券の交付手数料も、同様に、国家公務員旅費法三九条の二の規定に基づき支出されたものである。

3  本件支出は、随意契約に基づいて行われたものであり違法か。

(原告らの主張)

(一) 本件行政調査に係る旅行契約(以下「本件旅行契約」という。)は、豊橋市と日本通運株式会社(以下「日通」という。)との間で締結されているが、これは、随意契約が許される場合の要件を欠く違法な契約である。

(二) 行政調査の主体である豊橋市議会には執行権がなく、契約当事者となることができないから、一般職員の出張の場合と同様、本件旅行契約も、豊橋市が締結したはずである。日通の見積書の宛先も、「豊橋市長早川勝様」となっている。

旅行代金が、豊橋市から各議員に、各議員から旅行業者に支払われているのは、そのような契約内容になっていた結果であって、契約当事者は、やはり豊橋市である。

(被告らの主張)

(一) 本件旅行契約は、被告市議らが締結したものであるから、随意契約か否かは問題とならない。

(二) 日通以外の業者の提案書や見積書の宛名は、「豊橋市議会御中」、「平成九年度豊橋市議会海外行政視察団」、あるいは「豊橋市議会事務局」となっている。

また、本件旅費は、豊橋市から日通に支払われておらず、豊橋市から資金前渡職員を通じて被告市議らに支払われ、被告市議らから日通に対し、支払われている。

(三) 豊橋市は、旅行会社数社からヒアリングを行い、見積書を提出させているが、これは、本件行政調査の具体的な日程、行程を決定し、旅費等の費用弁償額を見積もる上での資料収集及び準備のために行ったものであり、支出負担行為を行うための事実上の準備行為にすぎない。

4  本件支出は、適正な手続きによって行われたものでなく、違法か。

(原告らの主張)

(一)(1) 旅行出発前に資金前渡で支出を行うことは、次のとおり豊橋市予算決算会計規則(以下「会計規則」という。)と矛盾を生ずるものである。

<1> 七〇条は、「資金前渡職員は、資金前渡により支払をしようとするときは、債権者の請求は正当であるか、当該支払資金の交付を受けた目的に反しないか等を調査し、領収書と引き換えに債権者に支払をしなければならない」と規定している。

しかしながら、旅行出発前には請求が正当であるか調査しようがないし、正当債権者に渡された資金は債権者の私金であって、どのように使おうと報告の義務はないはずである。

<2> 七一条一項は、「資金前渡職員は支払をした後七日以内に精算報告の手続をとらなければならない」と規定している。

本件支出は、平成九年九月二二日に行われたのであるから、同月二九日までに領収証を添えて精算報告書を提出しなければならないが、このとき旅行は始まったばかりなのだから、精算は不可能である。

(2) また、旅費条例一〇条でも資金前渡による支給は予定されていない。

(3) したがって、本件旅費の支出は、概算払によらなければならないものであったから、資金前渡によった本件支出は違法である。

(二) 本件行政調査の旅行命令には、旅費内訳書が添付されていないから、旅費条例四条及び同施行規則四条に違反する。

(被告らの主張)

(一) 本件旅費の資金前渡金は、資金前渡職員が平成九年九月二二日に受領し、その精算を同年一〇月一四日に行っている。これは、行政調査に係る旅費が随時の費用に係るものであり、債権者が外国又は遠隔の地において支払を行うものであるため、会計規則七一条一項括弧書きの規定に基づき、行政調査が終了し帰庁(同年一〇月一〇日)後、七日以内に精算手続が行われたものであって、何ら違法ではない。

(二) 原告らの(二)の主張は、争う。

5  被告早川に過失はあるか。

(原告らの主張)

被告早川は、市長として、本件行政調査について議会で十分議論がされたか、あるいは本件行政調査が必要なものであったかについて監視する必要があるところ、被告早川はこれを怠った。

(被告早川の主張)

豊橋市議会が本件行政調査の実施を決定した以上、その決定に重大かつ明白な瑕疵があって無効でない限り、市長は独自の判断に基づき右決定に従わない自由を持たないところ、本件においてはそのような瑕疵が存在しないから、被告早川に過失はない。

第三当裁判所の判断

一  争点1(本件支出に係る本件行政調査は、職務として行われたものでなく、違法か。)について

1  普通地方公共団体の議会は、議決機関として、その機能を果たすために必要な限度で広範な機能を有し、合理的な必要性があるときはその裁量により議員を海外に派遣することもできるというべきである。

国際化が進んだ今日においては、地方の市といえども、その地方の経済、文化など市の行う事業に関して、外国の都市及び外国企業と密接な関係を持たざるを得ない状況にあり、その関係をより発展させるためには、それら外国の都市や外国企業の実情を把握することが必要であり、その市の抱える行政課題に対する施策についても、先進的な試みをしている外国の都市から学ぶ必要が生じている。そして、市の執行機関から提出される議案について十分に審議するためのみならず、当該市の基本的施策などについて広く提言することなど、市議会に要請されている機能を果たすためには、議会が、議員を海外に派遣して、外国の都市の施策や外国企業の実情について視察させることが、有益であると思料されるに至っている。

議会は、執行機関から独立しており、その活動は議会の自治に任されているから、議会の機能を果たすための活動の一環として行われる議員の海外視察についても、その必要性、相当性の判断は、視察の対象、範囲、方法等についての決定も含めて、議会の裁量に委ねられている。よって、その裁量権の行使に逸脱や濫用があるときに限って違法になるというべきである。

以上に述べたとおり、議員の海外派遣の必要性や内容等は、議会の裁量に委ねられているが、議会の機能を果たすために、合理的な必要性があるとして、公費を使用して行われるものであるから、議会の意思決定自体が存在しない場合や、議員の派遣について合理的な目的が全く存しない場合、派遣の目的に何ら資するところのない旅行計画を立てた場合のように、裁量権の行使の逸脱又は濫用が明らかな場合には違法となるものである。

原告らは、公費を使用して行うに値する「視察旅行」というためには、議員の職務又は活動と関連性を有するものであること、具体的な行政課題との関係において、議員の職務又は活動に資するものであることが必要であり、そのためには、具体的に、事前に関係機関と連絡を取るなどして周到に準備されること、対象をつぶさに見て回り、関係者などから十分な説明を聞くなどすべきことの要件を備えることが最低限必要であると主張するが、議員の職務の範囲は、広範なものであり、具体的な議案の審議に関するものにとどまらない上、前記のとおり、当該海外視察の必要性と有用性の判断は、議会の裁量に委ねられているから、具体的な行政課題とどのような関連を持たせるかも、その程度を含めて、その裁量に委ねられているというべきである。

原告らの主張は、にわかに採用できないが、具体的行政課題との関連性が、合理的な目的の有無の一要素となることはいうまでもない。

2  証拠(甲一、二、六、七の一と二、一〇、三二の一と二、乙ロ一ないし一八、証人大柴滋、被告原基修本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一) 豊橋市議会は、昭和三八年ころから、豊橋市の抱えている行政課題に議員として応えるべく見聞し、知識を広め、議員活動に活かすという目的で、議員による海外行政調査を実施してきた。

(二) 本件行政調査を含む、平成七年度ないし平成九年度の海外行政調査も、平成七年の統一地方選挙後である同年五月二日に、世話人会(各会派の代表者による会議)において、当選二回以上の議員で行われることが決定された(甲六)。当選二回以上の議員に限るとすることは、平成六年九月一九日の議会運営委員会理事会において、申し合わせがされたものであるが、これは、初当選の議員は、議会のあり方や豊橋市内のことを十分勉強し研修することを最優先にしていくべきであるとの考えに基づくものである。

平成七年五月八日には、世話人会において、平成七年度ないし平成九年度の海外行政調査についての、各会派ごとの人数割りが決定された(甲七の一と二)。

なお、実際に調査を行う議員は、各会派の中で、当該任期中に海外行政調査を行っていない議員を優先して、選出されているものである。

(三) 平成九年三月、豊橋市議会は、本件行政調査について、費用は一人あたり一三〇万円、調査日数は一四日間、人数は一一人という前提で予算要求を行った。

同年五月二日には、議会運営委員会において、本件行政調査を行う議員が、予定人員の一一名から、死亡した議員を除いた被告市議ら及び訴外伊達議員の一〇名であること(もっとも、伊達議員は、実際は本件行政調査を行っていない。)、日程等については、調査を行う議員により協議し、議会運営委員会へ報告されることが決定され、本件行政調査の大まかな日程が審議された(甲一)。

(四) 同月一五日、被告市議らによる第一回の打合せ会が開催され、被告坂口好孝が本件行政調査団団長となることが決定されたほか、調査時期、訪問先及び調査内容が協議された。同月二二日には、第二回打合せ会が行われ、本件行政調査団役員及び調査時期が決定されたほか、引き続き、訪問先及び調査内容が協議された。

右訪問先及び調査内容の協議においては、当時の豊橋市における行政課題が、<1>ごみ焼却炉の更新、<2>平成一一年一〇月から開始される介護保険をはじめとする、高齢者福祉、高齢化社会への対応、<3>豊橋市に拠点を持つ欧米の自動車メーカーとの友好提携、及び通産相が提唱しているエルエル事業への理解と協力、<4>豊橋市市政一〇〇年の際に充実を図ることが提案されている美術館や博物館等の構想、及びモネガーデンとの友好交流の四つであること、そのうち最重要課題が<1>であること、当時豊橋市が三井造船製の焼却炉の導入を予定していたことから、訪問先は、三井造船と業務提携していたシーメンス社のある欧州となることが前提とされた。

(五) 旅行業者については、全国に支店及び営業所があり、海外旅行に精通した旅行業者という観点から、近畿日本ツーリスト株式会社、株式会社ジェイアール東海ツアーズ、東急観光株式会社、株式会社日本旅行、株式会社日本交通公社及び日通の六社が候補者に選ばれた。そして、同月二五日ころ、右六社に、豊橋市議会海外視察企画提案仕様書(以下「本件仕様書」という。)が配られ、本件仕様書に基づいて、同年六月五日に、企画書を豊橋市議会事務局に提出するよう依頼がされた(乙ロ一一)。

本件仕様書には、「視察目的」として、地方議会として、地域の国際化に対応するため海外に対する見識を高め、実際に諸外国の先進的な事物を視察することにより、本市の行政に役立てることを目的とする旨が記載されているほか、企画書に右(四)記載の豊橋市の行政課題に沿った主要なテーマが折り込まれるようにするため、「視察都市及び視察目的」の項目において、次の四都市を必ず訪問するよう行程を組むことが指示されている。

ニュールンベルグ 環境問題、廃棄物処理、ゴミ焼却炉

ハノーバー 自動車産業(フォルクスワーゲン社)

コペンハーゲン 福祉問題、高齢化社会

パリ 教育、文化遺跡の保護について

(六) 同年六月五日の第三回打合せ会において、本件行政調査が市民に支持され、理解されるべきものであるようにとの考えのもと、本件仕様書の提案内容が十分理解され盛り込まれているか、また、各社からの企画提案にすばらしいものがあるかどうかを確認するために、右六社について、一社あたり三〇分ほどのヒアリングが行われた。

その結果、最も安い企画において見積の価格が二番目に安かったこと、企画内容が優れていたこと、海外に精通している業者であること、過去の行政調査における実績などを総合的に考慮した結果、日通に依頼することが決定された。

(七) その後、同月一三日から同年八月八日までの第四回ないし第七回の打合せ会において、調査行程及び日程についての協議、被告市議らの役割分担の確認、調査内容の検討課題の協議、訪問都市別記録者の選定及び質問書についての協議、調査日程及び項目の協議、調査日程項目別の質問書の作成などが行われ、同月二五日の議会運営委員会で、最終的に、調査事項、訪問先及び調査日程が報告され、決定された。

日通も、調査日程を決める協議には参加しており、福祉問題を調査するための具体的な訪問施設を提案するなどしている。

(八) 訪問先は、調査目的として、豊橋市の抱える右(四)記載の行政課題に万博に関するものが加えられた結果、五つの行政課題の解決に適当な場所という観点から、別紙のとおり決定されたものである。

万博に関する調査については、本件仕様書には記載されていなかったものの、日通からの提案があったこと、このころ愛知県で万博が開催されることが決定されたこと、豊橋市議会も、平成七年二一月六日に、万博の誘致に関する決議を行っており(乙ロ一八)、被告市議らの万博への関心が高く、ヒアリング後の協議の中で、万博も調査の内容に入れるという話になったことなどから、行われることになった。

なお、訪問に関する事前連絡については、フォルクスワーゲン社に対しては、視察団が同社の日本法人本社を通じて、シーメンス社に対しては、視察団の指示により、日通が同社の日本側の窓口である三井造船に依頼して、高齢者デイサービスセンター及びリスボンの万博事務局に対しては日通が単独で、それぞれ行った。

(九) 平成九年八月二九日の第八回打合せ会においては、事前調査について協議された。そして、被告市議らは、本件行政調査において、訪問先で有効な調査を行い、調査目的を十分に達成するため、同年九月二日に瀬戸市の万博開催予定地を、同月五日にフォルクスワーゲンの日本本社を、同月一三日に豊橋動植物公園内のモネガーデンを、それぞれ訪問した。

なお、福祉問題については、第五回打合せ会の後である同年六月二六日に、既に野依福祉村を訪問していたものである。

(一〇) 平成九年九月一二日、市議会議長辻村が、旅行命令(依頼)書(乙ロ一)に押印して、同日付けで、資金前渡の方法によって旅費を支出する旨の支出命令書が作成され、同月二二日、資金前渡職員鈴木龍太郎に現金で支払われた(乙ロ二)。

そして、同日、資金前渡職員から、被告市議らに本件旅費が支払われたが、実際には、同行した菅沼義博環境事業部施設課長を加えた一〇人分の旅費等(一人当たり、航空運賃七二万八三二〇円と現地滞在費四一万九六八〇円、手続料、飲物代等の費用として五万円の合計一一九万八〇〇〇円)として、合計一一九八万円がまとめて日通に支払われた(乙ロ一、五、七、一〇)。

(一一) 同年九月一九日、本件行政調査についての最終確認が行われ、被告市議らは、次のとおり、本件行政調査を行った(なお、日時は全て現地時間である。)。

(1) 同月二七日午前九時、名古屋空港から成田空港に向けて出発し、午後一時五五分、成田空港からフランクフルトへ向けて出発した。そして、午後八時、フランクフルトから、最初の訪問地であるコペンハーゲンへ向かった。

(2) 翌二八日(日)は、午前一一時三〇分から、午後四時三〇分にホテルに到着するまで、市中心部の商店街、コペンハーゲン港、旧市街などを巡った。

被告市議らは、その際、通訳人を介して市民に質問をしたり、ガイドも兼ねている通訳人に、行政や政治に関する質問をしたりしている。なお、日通は、ガイドに対し、都市景観等を見学する際には、町の人口、議会の制度、あるいは教育制度のような、本件行政調査における研究目的に沿うような解説に特に時間を割くよう、事前に指示していたものである。

(3) 翌二九日は、午前九時三〇分にホテルを出発し、午後零時まで、高齢者デイサービスセンターである「ボディレスチュルネ」を公式訪問し、施設長から説明を受けた。

昼食後、午後三時五分にコペンハーゲンを出発して、ドイツのハノーバーに向かい、午後四時二五分に、ハノーバー空港に到着した。

(4) 翌三〇日は、午前九時にホテルを出発し、ハノーバー市内にあるエキスポ二〇〇〇の会場予定地を訪れた。しかし、同所においては国際見本市が開催されておらず、閉鎖中であったため、事務局員の説明を受けることはできなかった。

午前一〇時三〇分にはフォルクスブルグ市に向かい、午前一一時三〇分から、同市にあるフォルクスワーゲン本社を公式訪問し、日本地区担当マネージャーらとともに、昼食を兼ねた懇談会の後、説明を受けながら工場内を見学した。

同社に対しては、事前に質問書を提出していたため、それに対する回答がされたほか、同社と豊橋市との友好提携や産業交流についても話し合いが行われ、資料などの交付を受けた。

午後三時三〇分からは、自動車博物館を見学し、午後四時には見学を終えて、ホテルへ向かった。

(5) 翌一〇月一日は、午前九時四五分に、ハノーバー空港からドイツのミュンヘンに向けて出発し、午前一〇時五五分にミュンヘンに到着してからは車でアウグスブルグ市内へ向かい、午後零時四五分には、アウグスブルグ市内に到着した。

アウグスブルグ市庁舎地下にあるレストランにおいて昼食をとった後、午後二時からは、アウグスブルグ市郊外にあるBIFA研究所を公式訪問し、技術部主任技術委員より、廃棄物に関する法及び指針、廃棄物の処理、シーメンス社のTWPRプロセスについてなどの説明を受けた。

右説明の後、引き続き、隣接する、ドイツにおけるごみ処理事業についての方向を示したモデル施設であるAVAごみ処理施設を公式訪問し、焼却炉(ストーカ炉)の見学などを行ったあと、午後六時に、ホテルに到着した。右両公式訪問に要した時間は、合計約二時間である。

(6) 翌二日は、午前九時三〇分にホテルを出発して、シーメンス本社を公式訪問し、午前一〇時二〇分から同社において、営業本部長から、同社について説明を受けた後、同社の事業内容についての展示場において、展示されているものの説明を受けた。

同社に関しては、当時、廃棄物処理調査特別委員会において、豊橋市が導入を予定している焼却炉について、ランニングコスト、ダイオキシン問題、耐久性等について多く議論がされており(甲三二の一と二)、同委員会から依頼を受けた調査事項について、視察団として、事前に質問事項を同社に送付していたため、その回答も得たものである(乙ロ八)。

午後零時からは、同社にて会談兼昼食会を行い、午後一時からは、次世代型炉のあるフィルト市へ移動し、まず、会議室において、技術部門責任者から説明を受け、続いて、プラント管理棟において、本格的な試運転前ではあったものの、運転は行われていたプラントを視察し、再び、会議室において、家庭系廃棄物の処理体系と理由、同社の建設した次世代型焼却炉に関する懇談や質疑応答を行った。午後五時で会議室が閉まったため、ホテル内の会議室に場所を移し、午後五時三〇分から午後六時三〇分まで、三井造船の従業員ら及びシーメンス社の技術説明員ほか数名を交え、質疑応答の続きを行った。

(7) 翌三日は、午前九時三〇分にニュルンベルグ空港に到着し、午前一一時五分、飛行機の乗り換え地であるフランクフルトへ向けて出発し、午後一時一五分には、フランクフルトから次の視察地であるポルトガルのリスボンへ向かった。

午後三時一五分にリスボン空港に到着してからは、ホテルに向かい、午後四時にホテルに到着した。

(8) 翌四日(土)は、午前九時にホテルを出発し、終日リスボン市内、モンサント森林保護区、ベレム地区及びバイシャ地区を見学した。

なお、被告らは、リスボン市内については町づくりの参考にするため、モンサント森林保護区については自然保護について取り組んでいる状況を知るため、ベレム地区及びバイシャ地区については都市計画上の課題の参考にするため、それぞれ視察を行ったものとしている。

(9) 翌五日(日)は、体調を崩した二人の被告を除き、午前九時にホテルを出発し、終日、リスボン市内、エキスポ会場、ユネスコ文化遺産であるシントラ(王宮のある町)、欧州最西端であるロカ岬などを訪れた。

(10) 翌六日は、午前九時四五分にホテルを出発して、午前一一時ころから、エキスポ事務局を公式訪問し、会場予定地の中をバスで移動しながら説明を受けた。

その後、午後三時五〇分に、リスボン空港を出発してフランスに向かい、午後七時五分にパリのオルリー空港に到着した。

(11) 翌七日は、午前一〇時から、豊橋市動植物公園に植物を寄贈してもらっているクロードモネ財団を、同財団との友好提携を深めるため公式訪問し、モネの住居やアトリエの見学を行った。その後、庭園主任の説明を受けながらモネガーデンを視察し、クロードモネ美術館長と歓談した後、午後一時から、古城ホテルの待合い・会議室において、庭園主任と意見交換を行い、さらに昼食懇談会を行った。

午後二時三〇分に昼食会場を出発し、午後五時三〇分にホテルに到着した。

(12) 翌八日は、午前九時にホテルを出発して、パリ市内のカルチェラタン文教地区、凱旋門等歴史建造物の景観を生かしたビジネス地区、シテ地区などを見学し、昼食後は、午後二時三〇分から、ルーブル美術館を見学した後、午後五時三〇分にホテルに到着した。

(13) 翌九日は、午前八時にホテルを出発し、午前一〇時五〇分にフランクフルトへ向かった後、午後二時にフランクフルトから名古屋に向かった。そして、翌一〇日の午前八時一五分に名古屋空港に到着し、午前一〇時三〇分に豊橋で解散となった。

(一二) 本件行政調査の結果については、被告市議らにより、同月二四日及び同年一二月五日に、本件報告書の作成及び報告会についての協議がされ、同月二二日に、豊橋市議会第一委員会室において、市議会議員全員、助役以下課長職以上の職員及び報道関係機関を対象に開催され、七六名が参加した。

さらに、本件報告書については、豊橋市民センターあるいは豊橋市役所内の「じょうほうひろば」に展示された。

3  以上の事実からすれば、本件行政調査は、平成七年の選挙により、議員が選出されて、新しい議会の構成ができた当初の段階において、任期中に行うものとして予定された海外行政調査の三回目のものであり、予定どおり実施されたものであるが、平成九年に、議会運営委員会における人選と視察目的、その日程と視察先についての決定、議長による旅行計画の承認という手続を経て、実施に移されたものであり、議会の意思に基づいてその実施がなされたものということができる。

原告らは、議会運営委員会の権限には海外視察に関して審議、決定する権限はない、平成三年の法律第二四号により法一〇九条の二で議会運営委員会の権限が定められた後においては、議会運営委員会により決定されたことをもって議会の意思によるということはできないと主張する。

しかしながら、法一〇九条の二により、議会運営委員会についての規定が追加された理由は、地方公共団体の議会においても、党派による議会運営がなされるに至っている実情に即して、他の常任委員会と委員を兼ねることが可能であることを主眼として、別に議会運営委員会を設けることができるとしたものであり、従来、事実上、行われていた議会運営委員会の権限を制限する趣旨のものではない。よって、法一〇九条の二の追加によって、議会運営委員会における議員の海外派遣の審議、決定をもって、議会の意思に基づいたものと評価できるとの見解が変更を余儀なくされるものではない。

のみならず、議会の活動が、議案についての審議に限られず、議会としての対外的な活動や、内部的な自治に関する事務についても及んでおり、これらの事務についても、議員の意思を反映できる組織によってこれを審議、決定することが望ましいと考えられるに至っていること、党派の代表による審議機関である議会運営委員会が、議員全体の意思を反映できる組織として機能していることを前提として法一〇九条の二が追加されたことからすると、同条三項一号の「議会の運営に関する事項」には、議事に関する事項のみならず、議会としての対外的な活動や、内部的な自治に関する事項も含まれると解すべきである。よって、内部的な自治に関する事項に含まれる議員の海外派遣も、同号に規定する事項として、議会運営委員会の調査、審査権限に属するというべきである。

いずれにしても、本件調査についての議会運営委員会の審議と決定をもって、議会の意思が確認され、決定されたと見ることができ、右に加えて、市議会議長による旅行命令の承認がなされた段階で、議会の意思に基づくことが最終的に確認されたものというべきである。

4  前記認定したところによれば、本件行政調査は、当時豊橋市が認識していた具体的な行政課題の解決に向けて、他国の実情を参考にするため、実施されたものであると認められる。

そして、本件行政調査の目的である五つの行政課題に関しては、<1>ごみ焼却炉の更新については、ドイツにおけるシーメンス社及びフィルトプラントの公式訪問、<2>高齢者福祉及び高齢化社会への対応については、コペンハーゲンにおける高齢者デイサービスセンターの公式訪問、<3>豊橋市に拠点を持つ欧米の自動車メーカーとの友好提携については、ドイツにおけるフォルクスワーゲン本社の公式訪問、<4>美術館や博物館等の構想及びモネガーデンとの友好交流については、フランスにおけるルーブル美術館の見学及びモネ財団の公式訪問、<5>万博の調査については、ポルトガルにおける万博事務局の公式訪問と、美術館構想以外のいずれの問題についても、事前に訪問予定を伝え、相手方に対応を要請し、シーメンス社及びフォルクスワーゲン社に対しては質問書を送付した上で、実際に調査が行われているのであり、これらの事実に照らすと、本件行政調査が観光を目的としたものであったということはできない。

5  原告らは、本件行政調査の企画は旅行業者任せであったと主張するが、旅行業者からのヒアリングに先立って配布された本件仕様書には、特定の視察目的及びそれに関連した視察地を含めて行程を企画するよう指示がされていたのであって、本件行政調査が旅行業者任せであったものとはいえない。

また、原告らは、調査内容及び訪問先の決定前に本件仕様書が示されていることをもって、本件仕様書は被告市議らにより作成されたものではないと主張するが、本件仕様書を示した時点においても、調査内容及び訪問先は、被告市議らによる打合せ会において、既に二度にわたり協議されていたのであるから、本件仕様書に右指示が記載されていても不思議ではない。

なお、目的に沿う具体的な施設の選定や、訪問先への打診を、第三者に依頼して行うことは、調査に向けての準備を効率的に行うという観点からして必ずしも不当なものではなく、右4の認定に影響を及ぼすものではない。

6  原告らは、本件行政調査が、豊橋市議会がその必要性を感じて行ったものではないこと、調査を行う者が、当選二回以上の議員から、派遣の必要性とは無関係に選出されていることなどを理由に、本件行政調査が観光や慰労の目的で行われたと主張する。

しかしながら、豊橋市議会は、昭和三八年ころから、市の抱えている行政課題に議員として応えるべく、見聞し、知識を広め議員活動に活かすという目的で、海外行政調査を実施してきたものであり、本件行政調査もその一環であるところ、市議会が定期的に海外行政調査を行って、諸外国の行政を参考にすることは、決して不当なものではない。したがって、特定の目的を決めないまま海外行政調査を行うことのみを決定しておき、実際に調査を行う時点において、その時点での懸案事項を調査してくるという形をとっているからといって、必ずしも調査の必要性がなかったということはできない。

また、初当選の議員には、豊橋市のことについて勉強することを優先させるため、その対象とはしないという制度は、不合理なものとはいえないし、市議会議員の職務は特定の行政問題だけを対象とするものではないから、目的に応じて特定の議員を選出するべきものともいえない。

7  原告ら住民が、公金を使用しての海外行政調査について、密度の濃い調査を求める住民感情も理解できないでもなく、観光目的といわれてもやむを得ないような場所や視察方法はできるだけ避けるべきであり、相手先を訪問しての視察についても、住民からみておざなりの訪問であるといわれるようなことは、望ましいことではない(直ちに、これをもって違法であるとはいえないが。)。

確かに、本件行政調査には、主要な目的とされているにもかかわらず滞在時間が短い場所があったり、一般の観光ツアーに組み込まれている観光施設等と変わらない視察先であり、かつ一般の観光ツアーでは体験できないような特別の視察ができたというような事実も認められない場所があるなど、観光目的であると疑われてもやむを得ない部分も存在する。

しかしながら、コペンハーゲン市内及びリスボン市街の視察は、公式訪問ができない休日(土曜日あるいは日曜日)に行われていること、本来であれば、視察中であっても休日は職務を行う必要はないこと(日当が支給されていることとは別問題である。)を考えれば、やむを得ない面がある。また、ルーブル美術館については、当時豊橋市には美術館整備基本構想があり(乙ロ二一)、その参考にしたというのであるから、目的に沿った視察内容であるといえなくはない。

もっとも、一〇月八日の午前中は、パリ市内の観光を行っていると見ざるを得ないが、本件行政視察の目的の一つである美術博物館構想の参考にするべく、同じくパリ市内にあるルーブル美術館の見学を、その日の午後に行っていることを考えると、右事実は必ずしも本件行政調査が観光旅行であることを基礎づける事実とはいえない。

そして、前述のとおり、主要な目的については、それぞれ現地の施設等を訪問して説明等を受けるなど、行政調査としての実質を有する行動がとられているのであって、これらの訪問が形式的でおざなりであったということはできない。一か所の滞在時間が短かったとか、視察の方法や時期が適当でなかったなど、住民から見ると種々の意見があるとしても、本件行政調査が観光を目的としたものであると評価すべきような事実はない。

8  以上のとおり、本件行政調査は、その内容において、観光的な部分はあるものの、全体としてみれば、行政調査としての実質を有するということができ、慰労や観光を目的とした旅行であるとは認められない。よって、本件支出が違法であるとは認められない。

二  争点2(本件支出は、不相当に高額であり違法か。)について

1  乙ロ一号証によれば、本件支出の一人あたりの内訳は、以下のとおりである。

航空運賃(ビジネスクラス周遊運賃) 七二万八三二〇円

滞在費(ホテル代、食事代、移動費用など) 四一万九六八〇円

渡航手続費用 四二〇〇円

支度料 三万九〇八〇円

日当 八万九一〇〇円

旅券交付手数料(旅券不所持者のみ) 一万円

合計 一二九万〇三八〇円ないし一二八万〇三八〇円

2  原告らは、右費用は、航空運賃がビジネスクラスであったり、宿泊ホテルが高級であったりしたため、他の地方公共団体に比しても、不相当に高額であると主張する。

しかしながら、旅費条例二四条は、外国旅行に支給する旅費額については、国家公務員旅費法の規定に準じて予算の定める額とする旨規定している。

そして、国家公務員旅費法は、旅費の支給について、内閣総理大臣等及び指定職を除き、一般職の職員の給与に関する法律六条一項一号イに規定する行政職俸給表(一)による当該級の職務に応じた金額を定めている(二条二項)。豊橋市議会議員の報酬及び費用弁償等に関する条例一条によれば、豊橋市議会議員の報酬は月額五五万七〇〇〇円であるから、右表によれば、豊橋市議会議員の職務は、一一級に相当する職務となる。

3  国家公務員旅費法によれば、一一級の職務にある者の航空賃の額は、最上級の直近下位の級の運賃(附則七項、三四条一項一号ロ)、すなわちファーストクラスの直近下位の級であるビジネスクラスの運賃によることとなるのであるから、被告らがビジネスクラスの航空運賃を支給しあるいは受領したことに違法はない。

本件旅費において、滞在費に占める宿泊料の額は明らかではないが、右のとおり、国家公務員旅費法に定める金額までは、支給が可能であると認められる。そして、国家公務員旅費法は、宿泊料について、指定都市については一夜につき二万二五〇〇円、甲地域については一万八八〇〇円と定めているところ(なお、同法に定める一夜あたりの宿泊料が、社会通念に比して特に高額であるとは認められない。)、本件行政調査の宿泊地のうち、指定都市となるのはパリのみであるから、宿泊料は三夜分について二万二五〇〇円、その他は甲地域となるから、九夜分について一万八八〇〇円の、合計二三万六七〇〇円までは支給可能であったと認められる。

また、同じく滞在費に含まれる食卓料については、やはり国家公務員旅費法で、一夜につき六七〇〇円の支給が認められているから、一三夜分で八万七一〇〇円までは支給可能であり、宿泊料とあわせると、三二万三八〇〇円までは、条例上適法な支給額と認められることとなる。

右金額を前提にすれば、その余の滞在費は九万五八八〇円となるところ、これは、現地での移動費用、通訳及びガイド料等を含むものであるが、欧州で過ごすことのなかった最終日を除く一二日で按分しても、一日あたり約七三七五円であって、実際の費用がこれを超えるとは認められない。

したがって、本件旅費のうち、航空運賃及び滞在費は、いずれも条例上支給される範囲の金額で適法に支給されたものと認められる。

4  さらに、旅券交付手数料については、実費額が支給されることとなっているのであるから(国家公務員旅費法三九条の二)、豊橋市がこれを支出した点にも違法はない。

5  原告は、他の地方公共団体と比較して、本件旅費が高額であると主張するが、原告が他の地方公共団体の例として挙げるところ(甲八の一ないし六、九の一ないし一九)は、いずれも本件行政調査とは、調査場所、調査時期及び調査日程を異にするものであって、単純に比較できるものではない。また、他の地方公共団体がエコノミークラスを利用しているからといって、ビジネスクラスの利用が直ちに違法になるものでもない。

6  以上のとおり、本件旅費は、いずれも法律上許された範囲内の金額において支出されたものであって、不当に高額であるとは認められない。

三  争点3(本件支出は、随意契約により行われたものであり違法か。)について

原告らは、本件旅行契約が、法二三四条二項の規定に反して随意契約により締結されたと主張しているから、本件旅行契約が地方公共団体である豊橋市と日通との間で契約されたとの前提に立っているものと解される。

しかしながら、前記一の2の認定によれば、本件行政調査に関しては、豊橋市から旅行者である被告市議らに対して旅行費用が支出されたうえ、被告市議らから日通に対して旅行代金一一四万八〇〇〇円及び手続料、飲物代等五万円など一人当たり合計一一九万八〇〇〇円が支払われているのであり、本件旅行契約が、旅行者である被告市議らと旅行者である日通との間で締結されたことは明らかであり、法二三四条二項の適用はない。

日通の見積書(乙ロ一三の一)の名宛人は、豊橋市長になっているが、右見積書は、ヒアリングの段階で、日通が一方的に作成しただけであって、右記載から契約当事者を確定できる性質のものではない。本件仕様書の提出先は「豊橋市議会事務局」と記載されており、日通以外の五社は、見積書等の名宛人を、「豊橋市議会」あるいは「豊橋市議会事務局」としているのである。また、本件契約後、すなわち、契約当事者が確定した後に日通が作成した請求書(乙ロ五)及び領収証(乙ロ一〇)の名宛人は、「平成九年度豊橋市議会欧州視察団」及び「豊橋市議会欧州視察団」となっているのであって、この段階では、日通も、契約の相手方を被告市議らであると認識していたと認められる。

原告らは、豊橋市から被告市議らに支払がされ、さらに被告市議らから日通に支払がされている点については、当事者間でそのような支払方法をとるという契約がされていただけであると主張するが、原告らの主張を裏付ける証拠はない。

四  争点4(本件支出は、適正な手続きによって行われたものでなく、違法か。)について

1  本件支出は、資金前渡の方法により行われているところ(乙ロ一と二)、原告らは、会計規則七〇条及び七一条を根拠に、旅行出発前に資金前渡で支出を行うことは許されないと主張する。

しかしながら、資金前渡による旅費の支給が許されることは、会計規則六六条が、地方自治法施行令一六一条一項四号に規定するものについて資金前渡を認めていることから明らかである。

また、資金前渡職員は、支払いに際し「債権者の請求は正当であるか」、すなわち請求人が正当債権者であるか、履行期が到来しているか、支払いの原因となる債務負担の内容は正当であるか、請求金額に誤りがないか、必要な書類は整っているかなどを調査すればよいのであって、実際に旅行に行ったか、あるいは旅行内容が正当なものであったかなどを調査する必要はない。したがって、旅行出発前においても債権者の請求が正当であるかどうかの調査は可能である。

2  もっとも、資金前渡の精算報告については、支払後七日以内に行わなければならないところ、本件においては、資金前渡精算報告は、支払いの日である九月二二日より八日以上経過した一〇月一四日に行われており(乙ロ七)、この点においては、会計規則七一条に沿った処理が行われていない。

被告らは、会計規則七一条一項括弧書きは、債権者が外国又は遠隔の地において支払いをしたものについては、債権者の帰庁後七日以内に精算報告の手続きをとればよいことを規定していると主張するが、右規定は、資金前渡職員が外国又は遠隔の地において支払いをした場合の規定とみるべきである。債権者に支払いがされれば、債権者がそれをどこで使うかに関係なく、既に資金前渡の精算報告は可能であるし、債権者について帰庁という概念はとりえないからである。

3  しかしながら、本件においては、資金前渡職員から債権者である被告市議らに支払いがされた時点では、本件行政調査は終了しておらず、旅費も不明であるから、債権額は確定していない。すなわち、資金前渡職員から被告市議らへの支払いは、概算払いにより行われているものである。

そして、資金前渡職員が概算払いにより支払いを行った場合は、資金前渡職員と債権者との間で精算を行わなければならず、これを行うまでは、資金前渡金のうちいくらを債権者に渡すべきであったかが判明しないから、資金前渡職員から債権者に支払いが行われた時点では、資金前渡の精算もできないことになる。したがって、このような場合は、概算払いの精算が行われた後、すなわち資金前渡額が確定した後七日以内に、資金前渡の精算報告が行われれば足りるものと認められる。

4  本件において、資金前渡職員は、被告市議らの帰国した一〇月一〇日以後七日以内に資金前渡の精算を行うべきであったところ、一〇月一四日に資金前渡の精算報告を行っているから(乙ロ七)、右手続きは適法なものであったと認められる。

5  なお、本件行政調査に関する旅行命令書には、旅費条例施行規則四条に規定する様式一号の旅費内訳書が添付されていない。

しかしながら、右旅費内訳書の様式は、日当及び宿泊料のほか、個々の経路における鉄道賃、船賃あるいは車賃を明らかにするものであって、国内旅行を念頭においたものであることが明らかである。そこで、被告早川は、海外旅行であることを考慮し、別紙として、旅費内訳書兼領収書、平成九年度海外視察概要、旅費内訳、日通作成の御見積書を添付し旅行経路や宿泊場所を明らかにして、旅費、滞在費、日当などを明らかにしたものと認められる(乙一と弁論の全趣旨)。旅費内訳書を求める趣旨は、旅費の内訳をできる限り簡明に識別することにあることからすると、本件行政調査に関する旅行命令書はその趣旨に適合するものであり、施行規則の様式に合っていないからといって、支出手続の違法に繋がるものではない。

6  以上のとおり、本件支出の手続きは適正に行われているから、本件支出が違法なものとは認められない。

五  以上によれば、原告らの請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 野田武明 裁判官 佐藤哲治、同達野ゆきは、いずれも転勤につき、署名押印できない。裁判長裁判官 野田武明)

別紙 訪問都市別選定理由・視察内容等一覧表<省略>

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